トモダチ

ボクは小学生の頃から一人が好きだった
兄弟と一緒に寝るのも嫌だった
集団登校も嫌だったし、友達と一緒に帰るのだって嫌だった

給食だって一人で食べたかった
自分のペースで食べたかった

先生達はみんな『子供は一人が嫌いだ』って決めつけてた

そんな事はない

ボクはいつだって一人になりたかった


ボクは中学生になっても変わらなかった
中学生になって 一人でいたかったけど
少し淋しくなったから
仲間を探す事にした

ボクと同じで一人が好きなやつ
一人が好きで一緒に居ても一人でいられる仲間

一人でいるのはいじめられっ子だけだった

ボクはいじめられっ子に話しかけた
最初は全然喋ってくれなかった
それでも諦めずに喋りかけた

やっとその子が喋ってくれた

そのいじめられっ子はボクにこう云った

「ボクと仲良くするとキミもいじめられるよ?」

ボクは、それでもいいと思った



ボク達は仲良くなった
あんまり喋らなかったけど
一緒に居ても黙ってる事が多かったけど
それでも少しずつ仲良くなって
色んな話をするようになった

ボクは初めてずーっと考えてた事を
ずっとずっと考え続けてた事を
その子に話してみた


「あのさ、空をさ、真っ直ぐ真っ直ぐ進んでったらさ、空を突き抜けて、地球を出るよね?
 地球を出たらそこは宇宙だよね?
 それでも真っ直ぐ真っ直ぐ真っ直ぐ真っ直ぐ進み続けたらさ、
 宇宙も飛び出して、誰も知らない場所に辿り着くのかなぁ?
 だとしたらだよ、今度は地面を真っ直ぐ真っ直ぐ掘ってったらさ、地球の真ん中に行くよね?
 それも通り越して真っ直ぐ掘ってったらさ、地球を飛び出すよね?
 で、やっぱりそこは宇宙だよね?
 それでも真っ直ぐ真っ直ぐ進み続けたらさ、やっぱり宇宙を飛び出して、
 誰も知らない場所に辿り着くのかなぁ?
 だとしたらだよ、上に行っても、下に行っても、おんなじ場所に辿り着くって事?
 ねぇ、どう思う?」


その子は黙ってた
黙ってずっと考えてたから、ボクも黙ってその子の答えを待ってた


ボク達が黙って座ってたら、向こうからいじめっ子達が来た
数えたら、5人居た
5人居たけど、ボクは負ける気はしなかった
だって、いじめっ子は弱いって知ってたから

いじめっ子は弱い

いつもつるんで汚い言葉を使って暴力を使って、それを誤魔化して生きてる


いじめられっ子は強い

いじめられっ子だっていう現実を受け入れて その現実を受け入れて生きてるから、
孤独を知ってるから強いんだって、ボクはこの子と仲良くなったからわかった

だから負ける気はしなかった

いじめっ子が5人だろうが10人だろうが100人だろうが1000人だろうが

ボクは負ける気はしなかった


抵抗しないボクらはボコボコにされた
ボコボコにされて動けなくなって倒れたボクにいじめっ子のリーダーの奴が唾を吐いた

いじめっ子はボクをボコボコにしたんだよ?

なのにまだ頭にきてて、ボクに唾を吐いた
ボクはね、その唾を舐めてから、舐めて、飲み込まないって事を選んで、
こいつを拒絶するって事を選んでから吐き出してやった

ボクの勝ちだと思った


そいつらがいなくなってからやっとその子が喋り始めた


「あいつらバカだよね。
 ボクらはこうやって生きてる事を実感できる。
 痛みはね、生きてる証なんだよ。
 傷付けられると傷付けたくなくなる。
 優しくされたいから優しくなれる。
 さっきの質問の答えだけどね、ボクはボクが選んだ道を真っ直ぐに進んで行けば、
 その道が上でも下でも右でも左でも、おんなじ場所に辿り着くと思うよ。
 ボクらが本気で幸せになりたいと思って本気で選んだ道なら、
 その道を本気で真っ直ぐ真っ直ぐ進み続けるなら、
 その道が上でも下でも右でも左でも前でも後ろでも、おんなじ場所に辿り着けると思うよ。」


その子の答えがボクが探してた答えかどうかはわからなかったけどボクは嬉しかった


その子が「ボク」じゃなくて「ボクら」って云ってくれたから

その子が「ボクら」って云ってくれたから「ボク」が「ボク達」になった


だからボクは嬉しかった